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「ま、そんな風に正義の国家錬金術師の名前は大陸の隅々まで轟いていったってわけで」 
ミュンヘン郊外、一台の車がのんびりとした田舎道を走っている。車を運転しているのは、エドワード・エルリック。この世界に来てもう2年の月日が流れていた。やんちゃ少年だった彼も、もう18歳になり、すっかり大人びていた。
 「アルフォンス、ちゃんと聞いてるのかよ」
 「聞いてるよ」
 必死に笑い涙を堪えながらそう答えたのは、アルフォンス・ハイデリヒ、17歳。エドの運転る車の後部座席に座り、エドの話を笑いながら聞いていたのだ。
 「まったく、エドワードさんの話はいつだってサイコーにおもしろいよ」
 「作り話だってか?」
 「だって、錬金術が発達して蒸気機関以上に役立っている世界だなんて、あり得ないよ。その話すごく面白いからさ、ロケットの研究なんてやめて小説でも書いたら?売れるかもよ」
 「だな。そうすっかな」
 そう言いつつもエドワードは笑わなかった。そう、この世界でいくらこんな話をしたとこで信じてくれるのは、父ホーエンハイムだけである。この世界に放り出されてもう2年。自分が鋼の錬金術師と呼ばれ、アルと共に失ってしまった自分たちの体を取り戻すためにアメストリス中を旅していた頃がもう遥か昔のことのように思えていた。しかし、失った右手と左足。それが決して夢物語ではなかったことを証明している。あの激動の日々に比べたら、今のこの生活は平和そのもの。自分の後ろの席には、弟、アルフォンス・エルリックが成長した姿にそっくりの人物もいる。今のこの生活になんの不満があろうか。今のこの時は、自分に与えられた安息の時なのかもしれない、そう思いもう忘れようと考えたこともあった。が、しかし・・・
 「ゴホッ、ゴホッ・・・・」
 酷く咳き込む声にエドの思考が現実に引き戻された。慌てて車を停め、振り向くと後部座席で苦しそうに咳き込むハイデリヒの姿があった。
 「アルフォンス!」
 「大丈夫。ちょっと笑いすぎただけだから、すぐ治まるよ」
 ハイデリヒは喘息を患っていた。軽い発作が起きたらしい。
 「少し休むか」
 ハイデリヒの発作が少し落ち着いたのをみて安心したエドが言う。休むと言っても、何もない草原の真っ只中である。エドワードは車のエンジンを切ると、辺りを見回した。丘の上に一本の木が立っている。エドワードは何かに引かれるようにその木の方へ歩き出していた。
 「エドワードさん?」

 心地よい風が吹いていた。その風は秋の訪れを告げている。丘の上に立ったエドワードは、その先に広がる風景を見て呆然と立ち尽くしていた。似ていた。自分が生まれ育ったリゼンブールに。遠くに走る汽車。ゆったりと流れる河。点在する民家に畑。その光景はまさに弟アルフォンス・エルリックと共に時間を忘れてよく眺めていた風景そっくりだった。エドワードを言いようのない胸の締め付けが襲う。
 「帰りたいな・・・」
 「えっ?だってまだカーニバルに行ってないじゃないですか」
 ギクリとしてエドワードが振り返る。いつの間にかハイデリヒが横に来ていていたのに、エドワードはまったく気が付かなかったのだ。思わず口から漏れた言葉を聞かれてしまい、
 「あ、いや、そうじゃなくて・・・」
 そう言いかけると、
 「エドワードさん。ほら、あそこ。カーニバル会場ですよ!」
 言葉を遮られて、ハイデリヒの指差す方に視線を向ける。ハイデリヒの指差す林の向こう。カーニバル会場の観覧車やカラフルなテントが見えていた。
 「早く行きましょう」
 「あ、ああ・・・」
 そう急かされて、エドワードはハイデリヒの後を追って丘を下った。