ミュンヘン市内のとあるビヤホール。そこではある集会が開かれていた。その会
場の一番後ろの壁にもたれて、エッカルトが腕組をし冷ややかな眼でその様子を
眺めていた。しばらくその集会を見ていたが、ふいとその場を立ち去った。その
顔には悔しさが滲み出ていた。
ビヤホールを出た所で、一台の車とノーアの所から戻って来ていたヘスが待って
いた。それに乗り込むエッカルトとヘス。
「総統は、シャンバラの力を徐々に信じなくなってきています。このままでは私
達は党から隔絶されてしまうでしょう」
「そんなはずは!」
ヘスが絶句しているのが判った。
「シャンバラの力は偉大です。少しでも早くシャンバラの力を手に入れて総統に
認めていただかなくては」
「門を開くのを急ぎましょう」
エッカルトはまっすぐに前を見据えたままそう言った。
「それがいい。女は手中に収めました。すぐに計画が実行されるでしょう。そう
すれば、すぐにでも扉は開かれるでしょう」
その言葉にエッカルトが頷いた。だが、その瞳は冷めていた。
エッカルトにとって、総統のことなどすでにどうでもよくなっていたのだ。
自分がシャンバラに行くことができればそれでよい。エッカルトの思惑はそれだ
けであった。シャンバラの力をナチスの為に使おうなど、最初から考えていなか
ったのである。自分が力を得るためにナチスに近付き、その力を利用しているに
すぎなかった。もう総統に頭(こうべ)を垂れている必要も無かった。いよいよシ
ャンバラへの扉を開く、その時が近付いて来ていたのだった。
ハウスフォーハーの別荘では、ハイデリヒ達が集まっていた。打ち上げ期日がい
よいよ迫って来ていたのである。ピリピリした空気が作業場を包んでいた。
「打ち上げ予定日は少し繰り上がって2日後。それまでになんとしてでも間に合
わせなければならない。作業の方はどれくらい進んでる?」
ハイデリヒは隣にいたヨゼフに問いかけた。
「後2日か…ギリギリだな。急に急がせるな?どうかしたのか?」
「わからない。とにかくそれまでに打ち上げられるようにして欲しいそうなんだ
」
「間に合うのか?」
「なんとかするさ」
と、ハイデリヒが突然咳き込む。
「大丈夫か?少し休んだ方がいいんじゃないのか。ここんとこあんまり寝てない
だろ?」
「いや、大丈夫だよ。ここまで来たんだ。あと少し、がんばろう」
ハイデリヒはそう言うと、皆の輪を抜けロケットの方に歩き出した。本当の事を
言うと最近少し息が苦しくなることが多くなってきていたのだ。喘鳴(ぜんめい)
もひどくなってきていた。あまり無理をし過ぎるとせっかく落ち着いている喘息
の発作がまた出ないとも限らない。そうなったらロケットの開発から退かなけれ
ばいけない。もう少しで打ち上げることができるところまできているのに、のん
びり寝込んでいるわけにはいかなかった。自分の夢が後もう少しで叶うことがで
きるところまできている。これが成功すれば、その先も開かれていくだろう。ハ
イデリヒはこのチャンスをなんとしてでも自分の手で成功させたかったのだ。ハ
イデリヒは、常備している薬を飲むと残りの作業に取り掛かった。