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櫓のような物が組み上げられ、アルフォンスと仲間達が、小型ロケットの打ち上げ準備をしている。彼らは皆同じ本「Die Rakete zu den Planetenraumen(惑星空間へのロケット)」という本を参照している。見物人は多く、遠巻きにハイデリヒ達の準備を見守っていた。エドワードが部品の入った箱を持ってやってきた。
 「すっげえ人気だな」
 「オーベルト先生の本が出て以来、宇宙ブームだからね。エドワードさんだって、もっとでっかいので宇宙に行くつもりだったんでしょ?」
 準備の手を休めずにハイデリヒが答える。
 「ああ・・・ 最初はな・・・・・  それが、帰る道に繋がると信じてた・・・」
 エドワードが辺りを見回しながらつぶやいた。少しの間にまた人垣は増えていた。
 「いいぞ、ハイデリヒ」
 ハイデリヒがエドワードに何か言おうと口を開きかけた時、ごつい体格のヨゼフという仲間が声をかける。ハイデリヒが小さく頷いてエドワードの方を振り向くと、エドワードは櫓をくぐりその場から立ち去ろうとするところだった。
 「エドワードさん!」
 「あっちで昼寝してくる。長いこと運転したから首、痛くてさ」
 「見ていってくれないんですか?」
 ハイデリヒの呼び掛けにも答えず、軽く手を挙げただけでエドワードはその場を立ち去ってしまった。
「やっぱり、ダメだったか。オーベルトさんのとこで会った頃には、一番熱心だったのにな」
 二人は諦めたような顔をして、立ち去るエドワードの後姿を見送った。確かにオーベルトの所で一緒に研究していた頃は、誰よりも熱心で、まるで何かに取り付かれたように研究に没頭していたのである。エドワードは、当時16歳とは思えないほどの豊富な知識の持ち主で、オーベルトも将来を有望していた。ハイデリヒもそんなエドワードを尊敬し、いつのまにか目標にしていたのである。しかし、エドワードの情熱も次第に失われ始め、それは周りから見ていても判るほどだった。情熱を失ったというより、何かに失望した、そう言ったほうがよいかもしれない。今日、カーニバルに連れてきたのも、エドワードにあの頃を思い出して欲しかったからだった。小さくてもロケットが飛ぶのを見れば、また一緒に研究ができるかもしれない。そうハイデリヒは考えていたのだ。
 ハイデリヒは思い出していた。初めてエドワードに会った日のことを。オーベルトに紹介された時、エドワードを何故か他人に思えなかった。エドワードも自分を見た時何故だかひどく驚いていた。そして、驚くことに自分が名乗る前にハイデリヒの名を呼んだのである。その時、エドワードはうまくごまかしていたが、引き合わせたオーベルトも不思議がっていた。エドワードが時折見せる自分を見る表情も、友人を見る眼ではなくまるで弟を見るような眼であることにハイデリヒは最近気付き始めていた。エドワードが話す空想話もそうだ。単なる空想話にしてはよくできすぎている、この頃そう思うようになってきた。ハイデリヒは不思議な違和感が芽生えてきているのを感じていた。


 カーニバル会場の片隅に置いてあるヨゼフ達の乗ってきたトラックの荷台で幌を畳んで布団代わりにしてエドワードは寝転んで空を見上げていた。首が痛い、というより肩が痛いと言う方が正しいかもしれない、決してウソをついたつもりはなかった。義肢は重く、長い間着けて行動するのは正直エドワードにもきつかった。ハイデリヒの気持ちは、エドワードもわかっていた。だが、ロケットの研究をすればするほど、自分のやろうとしていたことの難しさが見えてくる。ロケットの研究は自分を苦しめるだけだとわかってしまったのだ。
 ハイデリヒ達とは目指す物が違っている
「どこまで行っても、オレは、ここから逃れられない・・・・・・・」
 空に右手を差し出し掴もうとする。しかし、掴めるものはなにもない。幾度この思いを味わっただろう。必ず掴める、そう信じていたのに・・・
 「オレは・・・いったい・・・」
 差し上げていた腕で眼を被う。エドワードの眼に涙が溢れそうになっていたのだ。先ほど見たリゼンブールとよく似た景色が脳裏に浮かぶ。それがさらにエドワードの心に追い討ちをかける。
 「バカかなオレ。なにやってんだろ・・・・・・」


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