ミュンヘン市内、四季ホテル。世界でも有数の高級ホテルである。建物壁面には共産党旗がはためいている。そこへ、ヘスの乗った車が横付けされる。ロビーには、裕福なユダヤ人実業家たちや、軍人達がたむろし、インフレに喘ぐ国内とは裏腹に贅沢な雰囲気が漂い、賑わっていた。その脇を、ヘスが横切り奥の部屋に入って行く。扉には、『ゲルマン古代を研究する学生グループ会合』とあるが、実際中には学生の姿はほとんどない。ハウスホーファーを中心に極右思想を持つオカルティスト集団の溜まり場であり、贅沢な食事と、激しい意見の交換の罵であった。牛角のついた古代帽を真面目に見ているハウスホーファーの元にヘスが駆け寄る。
「例の女の連行に失敗しました」
声を潜め報告するヘス。ハウスホーファーは眉をひそめた。
「困ったね。大いなる蛇を、彼女なら見つけてくれると思ったのだが」
「申し訳ありません」
ヘスは、深々とお辞儀した。
「・・・・別荘に行こう。エッカルト会長にご報告せねば」
「は」
二人は、部屋を後にした。
>>1-8