エドワードがノーアと連れ立って階段を降りてくる。
「鎧が、大きな鎧が金髪の少年、ううん、あれはあなたね。あなたと歩いている。鎧があなたのことを、兄さんと呼んで・・・ それから優しい笑顔、きっとお母さんね。それに明るい笑顔も。その子は・・・ウィンリィ?そして、綺麗な草原と丘がある小さな村・・・」
エドワードが振り返り手を挙げて制止する。その顔は辛そうであり、もうそれ以上言ってくれるな、と言っていた。
「あなたたちは死んだお母さんを元に戻そうとして・・・」
エドワードは軽く眼を逸らす。
「ああ、だが失敗して、オレは右手と左足を、弟は鎧の身体になっちまった」
ノーアは息を呑んだ。
「あの時私があなたの中に見たものはやっぱりウソなんかじゃなかったのね。アルフォンスが今朝話してくれた、あなたは空想の話ばかりしているって。でも、それは空想なんかじゃない。全部本当の話、なんでしょ?」
「・・・・・・・・」
「あなたのいた世界って、どんなところ?こことは違う別世界?」
「・・・・こことそっくりさ。ちょっと名前が違ったり、場所が違っているだけで・・・同じ顔の奴も大勢いる」
「どうして、あなたは、ここに居るの?」
「あちらの世界でオレを助けるために弟は消滅した。それを元に戻すには自分の肉体と魂と精神を代価にするしかなかった。あいつが元に戻れるのならオレは・・・でも、気が付いたらこちらの世界に来ていた。弟、アルが本当に元に戻れたのかもわからない・・・ 向こうの世界で人体練成は禁忌だ。だから、代償なんだろうな。ここは、オレに与えられた地獄なのかもしれない」
「・・・・・・・」
「二年前、ルーマニアでアルフォンスに出会った。弟、アルフォンス・エルリックが成長したらきっとこんな顔をしていると思った。もしかしたら、ここはオレの夢の中、なのかもしれないな・・・・・」
エドワードはそれだけ言うと階段を降り、外に出た。
「おはよう。グレイシアさん」
エドワードが声を掛けたのは、ここの家主、グレイシアだ。グレイシアは花屋を経営していた。実際には、花はさほど置いてはおらず、お菓子や野菜、古着などいろいろ扱っていた。グレイシアはちょうど商品の花を手入れしているところだった。花を見る目がとても幸せそうだ。
「おはよう、エド」
声を掛けられてグレイシアが振り返る。そこには、照れくさそうな、懐かしそうな、複雑な表情をしているエドワードがいた。 グレイシアが困った顔をする。
「また、そんな顔をして、私、そんなに誰かに似ているのかしら?お母様?それとも恋人?」
ドキッとなるエドワード。いつもそんな顔をしているのかな?自分では気付いていなかったのだ。ただ、ここに来れば懐かしい笑顔が見れるので嬉しかっただけである。
「ち、違うよ。あ、ノーアの服、ありがとう」
ノーアがエドワードの後ろから会釈する。笑顔で答えるグレイシア。だが、すぐ暗い顔になって、
「ノーアちゃんも一緒に出掛けるの?気をつけてね」
「大丈夫だよ」
グレイシアの言う意味がよくわからず、エドワードは軽く返事をした。そして、ノーアと連れ立って出掛けてゆく。グレイシアは、それを困惑したように見送った。