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あれから、数日が経っていた。ミュンヘン市内の、ある花屋の3階にエドワードとハイデリヒの住む部屋があった。家主はグレイシアという女性だ。グレイシアは二人を気に入っており、安く貸してもらっていた。機械いじりの好きな若者が住んでいる部屋だから、きれいに片付いている、というわけではなかったが、どことなく落ち着けると、ノーアは感じていた。
 「本当にいいの?」
 ノーアとハイデリヒが朝食を取っている。エドワードの姿はまだない。
 「仕方ないさ、追われているんなら。それにちょっと嬉しいんだ」
 「え?」
 「エドワードさんが女の子に興味を持つなんてね」
 ハイデリヒはなんだか嬉しそうにニコニコしながら話す。カーニバル会場を抜け出した後、エドワードはノーアを自分達の住む部屋にかくまった。帰ってきたハイデリヒはひどく驚いていたが、エドワードとノーアの説明に納得してくれ、かくまうことを承知してくれた。最近は、ハイデリヒもノーアの持つ不思議な魅力に盗り付かれ始めているようだった。
 「あの人は、以前はそうでもなかったんだけど、いつの頃からか他人に無関心というか・・・なんだか僕以外の人と深く関わろうとしないんだ。いつも別の世界の空想話をしてる」
 「別の世界の空想話?」
 「うん。科学技術じゃなくて、錬金術が発達した世界で、動く鎧と一緒に旅する国家錬金術師の少年が悪党どもをやっつける話さ。それがすごくよくできた話でさ、この頃じゃ僕もホントの話じゃないかなって思っちゃうほどなんだ」
 「・・・それ、空想話じゃないわ」
 「え?」
 ノーアはそれ以上何も言わなかった。ハイデリヒは疑念を抱きつつも、食事を済ませ身支度を始めた。今日は大事な会合があるのだ。急がないと時間に遅れる。
 「じゃあ行ってくる。とうとう僕達の工場が持てるんだ」
 ハイデリヒは、嬉々として図面などを取りまとめて出かけて行った。一人になったノーアは、ハイデリヒの話をもう一度考えていた。そして、エドワードの中に垣間見た光景を思い出していた。
 「錬金術の発達した、別の世界・・・」

 まだ寝ているエドワードの部屋にノーアが入ってくる。エドワードは布団を抱き込むようにぐっすりと眠っている。ベットの傍には義肢が無造作に置かれていた。ノーアがエドワードを起こそうと手を伸ばした時、
 「ウィンリィ・・・・・・ ウィンリィ、アルがさ・・・・・・・・」
 エドワードが寝言を言う。
 『ウィンリィ?』
 ノーアがしばし考えていると、ふと、エドワードが眼を覚ました。
 「ご、ごめんなさい。起こしちゃった?」
 エドワードはしばらくノーアを寝ぼけまなこで見つめていたが、むっくりと起き上がり、前髪を掻き揚げ、大きなアクビをする。普段は後ろで縛っているので気にならないが、エドワードの髪は随分長く、さらりとしたやわらかそうな髪であった。エドワードはその髪をしばらく無造作に撫で付けたり頭を掻いたりしていた。寝起きは良いほうではないらしい。
 「アルフォンスは?」
 「あ、もう出掛けたわ。大事な会合があるんですって」
 「そうか・・・」
 そう言うと、エドワードはベットの脇に腰掛け直しパジャマを脱ぐ。鍛えられた身体は昔と変わりなかった。だが義肢を支えるために付けているベルトの後がつきそれが痛々しかった。エドワードはまず右手の義肢を慣れた手付きで取り付ける。そして、左足。
 「手伝わなくていいの?」
 「慣れてる。これになって二年だ」
 確かに、あっという間に義肢の装着は終わっていた。エドワードは義足の足をカクカクと動かした。
 「そんなに動くの?」
 「ああ、簡単にならな。腕や足が無くなっても筋肉には信号が行くから、その信号を拾って・・・増幅させて・・・」
 頭から手の付け根、そして義肢へと指でたどって説明するエドワード。
 「ほんとは、よくわからねえんだ。作ったのは親父なんでさ」
 と、苦笑いをする。そして立ち上がると、体操するように伸びをしたり、腕を振ったり。
 「お父さんは?」
 ふと、エドワードの顔が曇る。
 「いなくなっちまった。ある日ふらっとな。それで以前ロケットのことを一緒に勉強したあいつのところに転がりこんだんだ」
 「心配じゃないの?」
 「心配じゃなくはないけど・・・そのうちまたふらっと帰ってくるさ。親父はいつもそうだったから」