ドイツ、ミュンヘンのビアホールは飲み屋というより、社交場であり、政治談義を交わす場所であり、壇上に立って自由に演説できる場所であった。昼からビール片手の男達がたむろし、道にも溢れている。
『聞いたかよ。今度から税金は金で払えってってさ。マルクじゃなしに』
『こんな紙っぺら、オレだっていらねぇ。これで一杯分にもなりゃしねぇ』
と、札束で相手の顔を撫でる。
『だったら貰っとくぜ』
『誰がやると言ったよ』
と、くだらないことで喧嘩が始まった。そこに警官が通りかかる。ヒューズにそっくりだ。
「いらないんなら、オレがもらうぜ」
「そりゃないぜ、ヒューズさん」
男は慌てて金をしまう。そこへエドワードがノーアを連れて通りかかる。
「よう。エド」
と、ヒューズが声を掛けるが、ノーアを見て黙ってしまう。
「おはよう。お巡りさん」
エドワードが答えると、ヒューズはエドワードの肩に腕を回し、半ば無理やり男達の方へ引っ張ってゆく。
「エドワード、本当だったんだな。ジプシー女と暮らしだしたって」
ヒューズはボソボソと話し掛ける。
「訳アリなんだよ」
「あのな、お前もアルもまだ口先三寸でダマされてんだろうが、ジプシーにゃ気を付けろよ」
エドワードを抱える腕をグイと絞める。
「あん?」
「あいつらは男を騙して財布を狙う。第一、流れ者だ」
「オレも、流れ者さ」
さすがに苦しくなってきた。エドワードがヒューズを押しのけると、
「万一のことがあったら・・・その・・・グレイシアさんに迷惑だ」
苦し紛れに言うヒューズ。しかし、エドワードはにやりと笑うと、
「さっさとグレイシアさんに告白したらどうなんだよ。人のことより」
エドワードがからかうと、ヒューズはたちまち真っ赤になった。
「きっとうまくいくと思うぜ!」
「お、大人をからかいやがって!この野郎!」
ヒューズは、腕を上げてブンブンと振り回した。笑いながらエドワードはノーアと立ち去って行く。しかし、その後ろを見送るヒューズには笑顔はなかった。